個別労働紛争解決制度

個別労働紛争の増加と解決手段

 時代の変化とともに、労働者の権利意識が高まり、自らの権利を主張する労働者も多くなりました。個々の労働者と事業主との間における、労働条件や職場環境などのトラブルを「個別労働紛争」といいます。近年では、従来の解雇や賃金に関するトラブルに加え、各種ハラスメントなどの新しい問題も加わり、個別労働紛争は増加し続けています。そこで、増加する一方の個別労働紛争の解決手段が必要になるわけですが、通常の裁判手続きでは、労働事件の解決には特に長期間を要することが多くなることから、平成13年に「個別労働紛争の解決の促進に関する法律(個別労働紛争解決促進法)」が制定されました。

行政機関における個別労働紛争解決制度

 個別労働紛争解決制度には、行政機関(都道府県労働局)が行うものと、司法機関(裁判所)が行うものがあります。ここでは、行政機関である各都道府県労働局で行われる解決制度として①総合労働相談②都道府県労働局長による助言・指導③紛争調停委員会によるあっせん、それぞれについて概略を解説します。

総合労働相談

 各都道府県労働局に設置される「総合労働相談コーナー」では、労働問題に関するあらゆる分野を対象として、労働相談を行っています。総合労働相談員は、労働関係法令や判例に精通した社会保険労務士等が、非常勤の国家公務員として相談にあたります。

都道府県労働局長による助言・指導

 都道府県労働局長が、紛争当事者(労働者及び事業主)に対し、個別労働紛争の問題点を指摘するとともに、解決の方向性を示唆することによって、紛争当事者が自主的に民事上の個別労働紛争を解決することを促す制度です。

紛争調停委員会によるあっせん

 あっせんとは、公平中立な第三者があっせん委員として入り、紛争当事者間の調整を行い、話し合いを促すことにより、紛争の解決を図る制度です。あっせん委員は、弁護士、大学教授、社会保険労務士等の労働問題の専門家により組織された、紛争調停委員会の委員のうちから指名されることになります。

個別労働紛争を迅速に解決するための制度です

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「固定残業代」近年の裁判傾向

固定残業代のインパクトは甚大

 固定残業代制度を導入している企業は多く、それが労働基準法に照らして適法かどうかによって、経営に与える影響は甚大なものになります。仮に、自社の固定残業代制度が有効と認められない場合には、①残業代を1時間分も支払っていないことになる②これまで支払っていた固定残業代部分も残業代計算の基礎賃金に組み込まれる③裁判に至れば裁判費用や場合によっては付加金の支払いを命じられることがある、といったリスクが生じ、文字通りの三重苦に追い込まれる可能性があります。

そのため、固定残業代の支払が有効となるための要件、判断要素を検討することは極めて重要であり、特に裁判で有効とされた事例または無効とされた事例の検討は大いに参考になります。

近年の裁判傾向から見た注意点

 近年の裁判傾向から、固定残業代制度の有効性について注意しなければならないのは大きく2点です。第一に、固定残業代制度を設計する際、その制度導入の目的に正当性、合理性が必要です(「コストダウン」などの目的では無効になる可能性が高いでしょう)。また、従業員への十分な説明を行うなどにより、その導入手続きの妥当性を確保することによって、制度内容及び計算方法に合理性が認められ、裁判上も有効と認められやすくなります。第二には、固定残業代の金額の定め方について、通常の労働時間として支払われるべき金額が多く含まれている、つまり、通常の労働時間の賃金を構成する基本給を、固定残業代に振り分けただけと判断され得る場合には、有効とは認められない可能性が大きくなります。

 そのため、固定残業代制度を設計するときには、自社における、平均的な残業時間などの数値や、法令遵守を意識した残業時間の目標数値などに基づく、合理的な金額設定が必要になると解されます。

導入にはメリットデメリットを考慮

 繰り返しになりますが、自社における固定残業代制度について、有効性が認められない場合、経営に与えるインパクトは甚大なものになります。固定残業代制度の導入に関しては、メリットとデメリット両面を考慮して、残業代の支払は、固定残業代がよいか、労働基準法通りの計算がよいか検討が必要です。

特に「有効」とされた裁判例は参考になります。

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