値上げのシミュレーションに変動損益計算書活用の勧め

値上げに踏み切れないジレンマ

 中東情勢の悪化や円安による原価の高騰、最低賃金の引き上げによる人件費の増大、さらには金利の上昇など、あらゆるコストが上がり続けています。そうした中で、値上げをしたい気持ちはあっても、値上げに対する心理的ハードルで値上げに踏みきれないジレンマが経営者の悩みでもあります。

 値上げをすれば顧客が離れてしまい利益が減るのではないかと恐れたまま利益の減少を甘受するのでしょうか。それとも、適切な利益確保のために値上げをして、事業の継続を図る方向転換をするのでしょうか。

変動損益計算書とは

 変動損益計算書は、ふだん財務会計で作っている損益計算書の原価と費用を、商品仕入高や材料費など売上げの増減に伴って変わる「変動費」と、人件費や地代家賃など売上げに関係なく発生する「固定費」に分けて作成したものです。

これは、企業の経営者や経営幹部など内部関係者へ経営活動によって上げた成果を報告する「管理会計」のためのものです。

 この変動損益計算書により、①「売上高」から②「変動費」を差し引くことで、商品やサービスを販売した際に直接得られる利益である③「限界利益」(売った-買った=儲かった)が計算されます。そして、④「固定費」が引かれて、⑤「経常利益」(儲けの残り)が算出されます。⑤「経常利益」は、企業の経営成績や財務状況を外部の利害関係者(税務署や銀行、株主等)に示す「財務会計」の数字と同じものとなります。

変動損益計算書で値上げシミュレーション

 昨今のコスト値上がりによる経営悪化は、主に②「変動費」の値上がりです。④「固定費」にも影響していますが、自社の値上げ検討は①②③の数字でシミュレートします。

 これまでの③「限界利益」を確保するためには、①「売上高」をいくらにしなければならないでしょうか。現在のコスト上昇による②「変動費」の数字とこれまでの③「限界利益」から確保すべき①「売上高」が計算されます。現在の販売価格と比較することで値上げすべき率は計算されます。

 とはいえ、値上げで顧客が減るかもしれません。予想される売上減少の率や、コスト見直しで削減できそうな②「変動費」の引き下げなども加味した上で、シミュレートして値上げを決めていくことになります。

管理会計は経営のための自由な会計です。いろんな角度からシミュレートして事業継続を図りましょう。

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税理士高野好史事務所(栃木県宇都宮市)

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みなし役員に対する退職金

経営者が生涯現役で仕事を続ける場合、退職金の支払を受けるタイミングに注意が必要です。

形式だけの分掌変更は退職所得とならない

 役員が退任して退職金を受領した後、非常勤役員や監査役となり、報酬を50%以上減額で退職金とする扱いは、あくまで形式要件にすぎません。退任後も会社で実質的に「経営上主要な地位を占めていると認められる者」に該当する場合は、退職金は退職給与として取り扱わないことも通達には記載されています。

みなし役員の退職金も退職所得とならない

 会社法の役員は取締役、監査役等ですが、法人税法の役員は会社法上の役員よりも範囲が広く定義されており、使用人以外の者でその法人の経営に従事している者も役員に含まれます。これを「みなし役員」と呼び、法人税では会社法上の役員と同様、役員給与の扱いとなります。

役員が会社を退職して退職金を受給し、退職後は役員でも使用人でもない立場で後継者に助言する場合、実質的に経営に従事していると認められる者は、法人税法上の「みなし役員」となり、退職した扱いとならないため、受給した退職金は退職給与として扱われず、役員給与として課税されることになります。

国税不服審判所の裁決事例

国税不服審判所の裁決(令和2年12月 15日)では、会社を退職した旧役員が退職後も「みなし役員」として経営への実質的な関与をしていたか否かについて、以下の点が検討されました。

  • 経営会議への出席と指示命令
  • 経営会議以外での指示命令
  • 金融機関等との交渉
  • 新規事業の決定等

 この事案では旧役員の退職後に経営に関与した客観的な証拠が認められず、退職金として認められました。反対に審理内容から退職後も旧役員が事業方針や人事、取引先や銀行との折衝等で意思決定に関与した場合、退職金として認められない扱いとなることが明らかになったといえます。

生涯現役の場合は死亡退職金をもらう

生涯現役で働く場合は、従前どおり役員報酬を受け、後継者の経営をサポートし、現場で若手社員に技術を教えることもできます。退職金は生前ではなく、死亡時に受給し、みなし相続財産として相続税非課税の適用を受けることも検討できます。

事業承継後の仕事も余暇も健康であってこそ成り立ちます。

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