採用と健康状態の調査

気になる応募者の健康状態

 労働契約とは「労働者が労働を提供し、その対価として会社が給料を支払うもの」です。ここでの「労働者の労働の提供」を平たく表現すれば、「心身ともに元気で働く」ということになります。そこで、労働を買いとる側の会社としては、「本当に元気で働いてくれるのか」を事前に知りたいと思うのは当然のことでしょう。この問題に関してはまだ裁判例も少ないのですが、現状で考え得る方法を検討してみましょう。なお、ここでの「健康状態」には、精神的なもの(メンタルヘルス)を含みます。

採用選考で健康状態を聞いてもよいのか

 結論を先に言えば、採用選考時に応募者に対し、健康状態を質問することについて「質問してはいけない」という法律上の規制はありません。ここで気になるのは、個人情報保護法での「要配慮個人情報」との関係でしょう。「要配慮個人情報」には「病歴」が含まれますので、質問した場合の回答が、「要配慮個人情報」に該当する可能性があります。個人情報取扱事業者は、一定の例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはいけないとされています。しかし、裏を返せば、本人の同意を得れば取得することができることになります。従って、「健康状態が要配慮個人情報だから」という理由で、「採用に当たり健康状態を聞いてはいけない」ということにもなりません。

ただし指針では、HIV感染症やB型肝炎等の感染症、遺伝情報などについては、職業上の特別な必要性がある場合を除き、質問すべきではないとされます。なお、応募者に面と向かっては質問しにくいこともありますので、「質問シート」を作成し、回答してもらう方法も考えられます。この場合には、シートに「第三者に提供しない旨」の文言を入れるなど、個人情報保護法の要件をクリアする必要があります。

健康状態はデリケートな問題であり、取り扱いが難しい面もありますが、採用時に質問せずに採用し、入社後に遅刻や欠勤が多く、聞いてみたら、「メンタルに不調があった」というケースもありえます。この場合「面接時に聞かれなかったから言わなかった」とされてしまえば、それまでになってしまいます。慎重にではありますが、採用時の健康状態の確認は行った方が良いと思われます。

正しい手順で正確な情報を得ましょう。

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見落としがちな「逆パワハラ」

「逆パワハラ」とは

 パワハラ(パワーハラスメント)への関心が高まり、企業でも各々の対応が行われています。しかし、意外と見落とされているのが、部下から上司に対するパワハラ(以下「逆パワハラ」)です。「えっ、そんなことあるの?」と思われる人もいるかもしれません。企業活動を考えてみると、「部下の方が上司よりパワーを持っている」というケースがあります。例えば、ある部署での仕事に精通したベテランの一般社員が、新任の上司より、その部署やそこで仕事を進めるにあたり、パワーを持っていることは珍しくありません。新任上司は仕事を進めるために、そのベテラン社員の協力が必要になります。そこで、そのベテラン社員が、自身の優位性を盾に新任上司に対して嫌がらせをするというケースが発生します。

厚生労働省の調査では「パワハラを受けた」と回答した人のうち、3.6%の人は、「部下からパワハラを受けた」と回答しています。(令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書)

「逆パワハラ」はこれから増える?

「逆パワハラ」が今後増えるのでは?と言う可能性が懸念されています。その背景には3つのことが挙げられます。1つは「職場でパワハラ防止対策が整備され始めていること」です。それ自体は良いことですが、それにより、上司が部下に対して注意などをしにくくなっている側面があります。上司が部下に遠慮がちになることによって、相対的に部下のパワーが高まれば、「逆パワハラ」の素地ができることになります。2つ目は「女性や若手の登用が進むこと」です。これも良いことである反面、「女性のくせに」「若いくせに」と反感を持つ部下が発生する可能性があります。そのような部下が、上司の指示に従わない、言うことを聞かない、ということになれば、「逆パワハラ」の初期段階です。最後に、「デジタル化、AI化の進展」です。当然に個人差はあるでしょうが、年齢の高い上司より、若い部下の方が、デジタルやAIに精通していることが一般的だと思われます。これらの知識が豊富な部下が、これらに疎い上司を見下すような態度を取るということも考えられます。「逆」ではあっても「パワハラ」であるなら、被害者や職場に与える悪影響は大きなものになりかねません。職場として十分に認識しておきましょう。

「逆パワハラ」もあるのを知っておきましょう

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