上場株式の配当所得課税    -有利な課税方式の選択-

上場株式の配当金は、所得税15.315%と住民税5%が源泉徴収済みの状態で支払われますが、課税方式の選択によって税負担が異なることをご存じですか。

所得税で総合課税が有利となる場合

総合課税では、配当所得を事業所得、不動産所得など他の所得と合算して課税します。配当控除(1000万円以下10%、1000万円超5%)があるため、一般的には所得税では総所得金額が900万円未満(所得税率5~23%)の場合、総合課税が有利、900万円以上では、申告不要が有利となります。

総所得金額所得税率(A)配当控除(B)判定A-B ≷15.315%
900万未満5~23%10%総合課税
900万以上33~45%5~10%申告不要

住民税では申告不要が有利

住民税では総合課税の場合、所得割10%に対し、配当控除2.8%(1000万円超は1.4%)後の負担額は特別徴収された5%を上回るため、申告不要が有利といえます。なお住民税で所得税と異なる課税方式を選択する場合は、その年の納税通知書送達日までに市区町村に住民税の申告書提出など所定の手続が必要となります。

申告分離課税が有利となる場合

申告分離課税を選択した場合、上場株式の譲渡損失があると譲渡損失金額と配当所得金額とを損益通算し、相殺しきれない譲渡損失金額は翌年以後3年間にわたり各年の配当所得金額及び譲渡所得金額から繰越控除して税負担を減らすことができます。なお、繰越控除を受けるためには、譲渡損失を計上した年分の後も譲渡がない年を含め、連続して確定申告書の提出が必要です。

国民健康保険や介護保険の負担増に注意!

国民健康保険、後期高齢者医療保険、介護保険の保険料は、総所得金額等や合計所得金額をもとに算定されますので、住民税で総合課税または申告分離課税を選択すると譲渡所得、配当所得が増え、保険料も増加します。このため譲渡損失の損益通算及び繰越控除のメリットと保険料負担増のデメリットとの事前の比較検討が必要となります。所得税で総合課税や申告分離課税を選択しても住民税で申告不要を選択することにより、上場株式の譲渡所得、配当所得を保険料の算定に反映させなくすることも可能です。その場合も各市区町村に課税選択の手続を忘れずに行いましょう。

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隠ぺい仮装と重加算税 -対象となる従業員の範囲-

社員による横領の例は少なくありません。この間も大手広告代理店の従業員が架空の外注経費を会社に支払わせ、相手先と利益を分配していた事案が報道されました。

経営者としては、信頼していた社員の横領に「まさか、どうして?」という気持ちでしょう。しかし、他にも税金で思わぬ負担がかかる場合があることをご存じですか?

税法の取扱い

従業員の隠ぺい仮装行為が税務調査で判明すると、期限内申告税額に加え、過少申告加算税に代えて重加算税(35%、過去5年以内に無申告加算税、重加算税の前歴があるときは45%)が課されます。国税通則法では、重加算税の課税要件として①過少申告加算税の要件に該当していること②納税者が隠ぺい仮装を行い、それに基づき納税申告書を提出することと規定しています。

ここで納税者の範囲は誰かが問題になります。文理では申告書を提出する法人が納税者となりますが、判例には隠ぺい仮装を行った従業員を納税者と同視できる者として重加算税を課すものが多くあります。

内部統制制度の構築・運用責任

会社法では、取締役会(取締役会が設置されていない会社では、各取締役)に対し、法令違反が行われないよう内部統制制度の構築とその運用(取締役の職務執行に対する監督)が義務付けられています。取締役が従業員による法令違反が行われないよう組織を運営せず、監視を怠っていたときは、善管注意義務や忠実義務を果たさず会社が被った損害に対して賠償責任が問われます。

重加算税の論拠はどこに?

経理部門の責任者や役員は、決算処理や申告実務に権限を有する地位にあり、租税回避の目的を認識する機会は少なくないといえます。一方、自己の利益のために横領する従業員の行為について会社は租税回避の意思は有してはいないでしょう。

不正を行った従業員を監督責任を果たさなかった納税者と同視する判例の考え方は、会社法が取締役に求める内部統制制度の構築・運用責任を税法に取り入れたものといえます。しかし、会社に損害を発生させた責任を税法にもあてはめ、重加算税を課す論拠とする考え方には無理があるように思われます。もとより会社法上のコンプライアンスは、会社の信用と存続のため会社が自ら遂行するもの。税務コンプライアンスとは次元が異なるといえないでしょうか。

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