今年の改正税法 過年度への遡及適用の珍事例

遡及適用違憲の訴訟

 不動産の譲渡所得を総合課税から分離課税にする改正税法を公布の日より前の年初に遡って適用するとしたことにより、幾つかの遡及立法違憲無効訴訟が起きたのは、2004年の税制改正でした。2011年の最高裁判決は、所得税は期間税なのだから、納税義務の確定日としての12月31日からすれば遡及には当たらない、と言い、適用を4月以降とすることが憚られるほどの緊急の遡及立法の必要性があったと述べて、遡及立法合憲・納税者敗訴としました。

敗訴でも事実上の勝訴効果

 しかしその後、その判決内容の納得性の欠如を指摘する多くの判例評釈が書かれ、また、この判決以後に於いては、納税者不利益遡及立法だけでなく、遡及立法一般がほとんど行われなくなりました。

問題にならない遡及適用もあります

 ところが、今年の税制改正では、何年も遡及することを前提にしたものが2件ありました。納税者に不利益をもたらす内容の改正ではないので、係争になる余地はないのですが、極めて珍しいケースと言えそうです。

ソフトバンクスキーム潰しの立法にミス

 その一つは、ソフトバンクスキーム潰しと言われた子会社株式簿価減額特例の見直しです。スキームは、外国から買取った子会社に配当をさせて、その子会社の株式評価額を下げ、その後に子会社株式を譲渡して譲渡損を発生させるというものです。それへの対抗策として、評価を下げることになる配当では株式簿価が切下げとなる規定創設で譲渡損発生を防止することにしました。しかし、期中利益の期中配当は、評価減を生まない配当なので、簿価減額処理の対象外であるべきはずだったのに、立法ミスだったのか、そのように制度化されていませんでした。それで、この規定修復がなされ、規定創設時である2020年4月1日への遡及適用とされました。

違法無効判決を承けて

 もう一つは、最高裁判所の判決(令和3年3月11日)が、政令を違法・無効とする内容だったことを承けての見直しです。利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当(混合配当)での、みなし配当の額の計算結果が、資本剰余金を超える資本金等の額の支払いになってしまうという異常部分の修正です。この改正は、違法無効部分の除去なので、更正の請求の可能な限りの遡及適用となります。

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今年の改正税法 違法無効規定の迅速な改正

違法無効ゆえの国側敗訴

 最高裁判所は昨年3月11日、利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とする剰余金の配当が行われた場合、変動する資本金等と利益積立金との金額の比例配分計算をする算式を定める政令規定が、法人税法の趣旨に反する結果をもたらす場合があり、その場合には、政令の計算規定は、違法・無効であると、判示しました。資本の分配額の計算の中に益金不算入のはずの利益が混入する結果になる、との指摘でした。

国税当局の速やかな対応

 国税庁は、10月25日、違法・無効と判示されていることを受けて、計算規定である当該政令について、配当原資とされた資本剰余金の額を超過してしまうような計算結果をもたらす場合、その超過部分は違法無効なのだから、ゼロとする取扱いになる、と公表しました。さらに、平成4年の税制改正項目として税制改正大綱でその政令規定の改正を表明し、今年改正されて、すでに施行されています。

新政令規定での計算結果

 資本金5000、資本剰余金1000、利益剰余金1000、利益の配当500、資本の配当500として、これを新政令規定で計算すると、1000×6000÷7000=857>500となり、資本の配当額を超過するので、857は500に改められることになります。

資本金5000、資本剰余金1000、利益剰余金△1000、資本の配当500として、これを新政令規定で計算すると、

500×6000÷5000=600>500となり、資本の配当額を超過するので、600は500に改められることになります。

資本と利益の混同が震源

 利益の資本組入れ、資本による欠損補填、自己株取得など、会計では資本と利益の峻別が甘いのに対し、税務ではこれを厳格に区分して、会計での甘さをカバーし、それを担保するシステムを構築しています。

また一方、税務でも、資本の払戻しという資本取引に対し、平成13年に、清算概念を取り入れ、株主拠出資本のみならず利益の清算分配もされているとの取扱いにしました。これがプロラタ計算と言われる比例配分政令計算規定の発生事情です。これは、資本と利益の混同です。

判決には書かんが、税で資本と利益の混同をするのがいかんのじゃ。

資本・利益に係る会計と税務の差異を相互に拡大し合っていることが、今回の政令規定違法無効の判決を生み出すことになる震源事情と言えそうです。

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