ロシア金融制裁における損害リスクと税務上の取扱い

ロシアへの金融制裁=SWIFT締め出し

 ロシアのウクライナ侵攻に対する金融制裁として、日本もアメリカやEUに続き、SWIFTからロシアを締め出すことを表明しました。SWIFTは貿易などの送金で使われる国際的な決済ネットワークです。ここから締め出されると世界の経済の動きの中から締め出されることを意味します。

 日本は、ロシアからは石炭をはじめ、サケ・マスなどの海産物まで、たくさんの輸入をしています。代金の支払ができなくなれば、次の輸入も止まり、輸入業者のみならず私たちの生活にも影響が出ます。

金融制裁下での送金リスク

 金融制裁が始まってすぐのころ、取引先銀行からA社に海外送金の予定に関する照会がありました。A社では実際にロシアに送金する必要性があったので、銀行に対して送金依頼を掛けたらどうなるか逆に質問してみました。

 銀行からは、1)現在社内規定でロシア宛の送金は厳しくチェックされることになっており、送金自体ができるか分からない、2)仮に受付銀行でOKとなった場合でも、経由銀行で資金が差し押さえられ、没収されるリスクがある。こうなった場合資金は戻って来ない、という回答がありました。

こうしたリスクが残る中でイチかバチかに賭けて送金することはできません。

経由銀行で没収された損害の税務上の扱い 

 没収リスクを承知の上で、送金手配をし、実際に没収された損害は、税務上どのように取り扱われるのでしょうか? 

 法人や個人事業主がその事業に係る送金で没収された損害は、事業上の損金や必要経費として扱われることになるものと考えられます。しかしながら、支払義務は残ったままですので、丸々損害として経営にダメージを与えます。

 一方、事業に関係のない個人が生活上で購入した対価として支払うものが没収されたら何か救済措置はあるのでしょうか?

 所得税法に「雑損控除」という救済制度があります。しかしながら、これは災害や盗難などで資産に損害を受けた時のものであり、送金経由銀行での没収は該当しないものと考えられます。となると、やはり、丸々大損です。

 リスクがあると送金は控えられます。こうして金融制裁が効いてくるのです。

早く金融制裁が解消される世の中に戻って欲しいものです。

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二重払いとなる外国年金に係る年金協定と社会保険料控除

日本と〇〇国との間の社会保障(年金)協定

 外国で働く場合、働いている国と本国とで社会保障制度に二重に加入する必要が出てくる場合があります。年金を受け取るために、一定期間その国の年金に加入しなければならない条件があるときは、その国で負担した年金保険料が年金受給につながらないことがあります。

 上記を踏まえ、(1)二重加入の防止と(2)年金加入期間の通算を目的として、社会保障協定が締結され、2022年2月1日時点で、日本は23か国と協定を署名済で、うち21か国は発効済みです。(注)英国や中国など一部国では(2)は適用外とされています。

年金協定適用の外国払い社会保険料の控除

 年金協定が適用される場合、年金事務所に届出書を提出して認められれば、その国から日本に赴任してきた人の日本での年金払いは不要となります。ただし、免除は年金だけで、健康保険の加入義務は残ります。

 ところで、本国で支払われている年金につき、日本の所得税の計算では社会保険料控除は取れるのでしょうか?

 従来は、日本の所得税法での社会保険料控除の対象が、日本の社会保険制度の下で支払われたものに限定されているため、相手国での社会保険料は控除対象外でした。

年金協定適用の外国払い社会保険料の控除

 しかしながら、唯一フランスのみ、2007年に日仏租税条約の交換公文で、フランスの社会保険料も、所定の計算方法で計算した上限までは控除できると取り決められました。残念ながら、フランス以外の国では、他にはまだ適用国がないようです。

 実際の手続きとしては、租税条約での取決めを実施に移す、租税条約実施特例法により、「課税の特例の届出書」という所定の書式を用いることでフランスの社会保険料を控除できます。

 なお、この控除額を計算するにあたって、「租税条約相手国の社会保障制度に係る権限のある機関のその社会保障制度に係る法令の適用を受ける旨の証明書(適用証明書)」および「その(特定社会)保険料の金額を証する書類」の提出が求められます。

 控除限度額の計算に際しては、日本の年金支払額の上限金額の計算要素の一つとなるなど、結構面倒です。

 年金協定適用と年金事務所への届出は社会保険労務士に、所得控除計算は税理士にご依頼されることが時間短縮でお勧めです。

年金協定は無条件には適用されません。雇用条件等、適用条件が厳しくチェックされます。  

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