税法にある資本と利益の混同

マイナス資本金等の原因

自己株式取得では、取得価額を、その株式に対応する資本金等の額とその他の利益積立金額とに分別します。ただし、自己株式の取得でも、市場取引による上場株式の取得、合併・分割・現物出資・現物分配での取得では、資本と利益の分別処理をしないで、取得価額全額を資本金等の額とします。その結果、マイナス資本金等の額が生ずることがあります。これは、利益を分別しないことによる利益への資本の混入です。

MBO後の逆さ合併

 自己株式の取得の金額が大きくなるのはMBOやLBOの場合で、買収の為に用意された会社が株式のすべてをオーナーから高額な時価で買取り、完全親会社になり、その後、完全親会社と完全子会社が逆さ合併(逆取得合併)することにより、親会社が所有していた子会社株式が子会社の自己株式になるからです。その場合、巨額なマイナス資本金等の額になるのが普通です。

マイナス資本金等下での自己株取得

そうすると、事後の自己株取得では、マイナス資本金等の故に、全額が資本金等超過額となり、全額がみなし配当になってしまい、取得側には資本金等の額を減額する処理が出てきません。今度は逆に、資本への利益の混入です。資本金等に対応する額が計算されないので、売主側の譲渡対価となる額も認識されず、譲渡原価のみ認識されることになります。対価ゼロの株式譲渡原価の認識なので譲渡損発生となります。

売主が、 完全支配関係下にある法人の時は、譲渡損益調整資産の譲渡損益は繰延べとなります。個人については全額配当所得課税となり、譲渡損は損益通算できない損失になり易いところです。

資本と利益の混同は排絶すべし

こういう事態を放置している理由には、みなし配当課税が済んでいないとの考えがあるからなのかも知れませんが、取得時の相手は譲渡所得課税されているわけですから、みなし配当の代替課税は済んでいると考えて、自己株取得のすべての場合で、その取得時に資本と利益の分別作業をするのが合理的です。過去から自己株式となっているものでも、一株当りの資本金等の額の計算は可能なはずなので、税務における資本と利益の分別の徹底と透明化のために、税務が生み出す資本と利益の混同の実態は清算されるのが望ましいところです。

資本と利益の峻別が混合配当訴訟でのテーマだったではないか

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マイナス資本金等に対処できない取引相場のない株式評価

配当還元価額計算での異常事態

資本金1,000万円、200株発行、1株50,000円の会社で、配当実績がない場合、配当還元価額は、1株当り25,000円です。

ところがこの会社が、MBOでの買収の為に用意された会社がオーナーから株式のすべてを買取り、完全親会社になり、その後、完全親会社と完全子会社が逆さ合併した存続会社だったとして、オーナーからの買取株が自己株式として10.1億円で帳簿価額に計上されていたとすると、資本金等の額は△10億円(=1,000万円-10.1億円)となり、発行済み株式数は△20,000,000株(=△10億円÷50円)、一株当り年配当金額は△2.5円(=年平均配当金額÷△20,000,000株)と計算され、△2.5円÷10%×(△10億円÷200株)÷50円=250万円と計算され、配当還元価額は100倍の250万円になります。

類似業種比準価額計算での異常事態


マイナス資本金等の会社の類似業種比準価額での株式評価についても、1株を50円とした場合の発行済み株式数△20,000,000株(=△10億円÷50円)で配当金額、利益金額、資産価額を除する計算から始まりますが、各値はマイナスとなります。

しかし、ここでも、実際の1株当たりの発行価額に換算し直すときに、マイナス資本金等が再び登場して、マイナス値にマイナス値を乗じてプラス値が復元することになります。但し、ここでは、マイナス株式数での除算・乗算により100倍値にはなりません。でも、端数処理での変動があり、比準要素0や1の会社になってしまうこともあり得ます。

プラスになればよいという不思議

このように計算するのだとTAINSにある当局情報は言っています。異常事態に気付いてないかのようです。

特に異常度の激しいのは配当還元価額です。配当還元価額が他の評価額よりも激しく高くなってしまいます。

そもそもマイナス資本金等というのは自己株式の取得価額に内在する資本と利益を分離させていないことによる仮の数値です。仮の数値を使って計算しても、仮の値にしかなりません。

1株5万円の株式の配当還元価額は?

資本からマイナスされている利益を除いて、本来のプラスの資本金等の額に戻すことをしない限り、この異常事態から脱け出せません。

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