供託金が課税される訳 -ライセンス料の収入計上時期-

がん免疫治療でノーベル賞を受賞した教授が、製薬会社との間で特許権のライセンス料をめぐり係争し、その受け取りを拒否したところ製薬会社が供託し、供託金に課税されていたことが報道されました。

権利確定主義」と「管理支配基準」

所得税法には、収入金額の計上時期について、主に2つの考え方があります。

①「権利確定主義」は、収入する権利が確定したときに収入金額を計上し、現実に収入がなくても収入実現の蓋然性が高いと判断されるときに課税すべきとします。現金主義は恣意的に課税される年を変更できるため、課税の公平の見地から認められません。

②「管理支配基準」は、対価を自己の所得として自由に支配し処分できるときに収入金額を計上します。現実の収入があれば権利が確定していなくても経済的利得に担税力を認め、課税すべきとします。

供託金にも課税できるとする根拠

上記の考え方をこの事案にあてはめると、対価を裁判で争っているため、権利確定主義の下では判決・和解の日まで収入金額の計上時期は到来しないといえます。

一方、製薬会社が供託したライセンス料は、還付請求すれば受け取ることができるため、少なくとも供託金額は教授の支配下にあるものととらえることにより、管理支配基準のもとで収入金額に計上することになります。課税庁が供託金に課税した理由は、ここにあるものと思われます。

供託金を受け取らなくても課税?

教授は課税庁の指摘を受け入れ、納税資金捻出のため供託金の一部を受け取りましたが、当初、裁判で不利にならないよう受け取りの意思表示をせず係争を続けていた状況下で供託金を管理支配していたといえるのか、課税庁の判断に疑問の余地も残ります。

次代の研究体制強化につながる対応を! この係争の背景として、製薬業界の莫大な研究開発費の負担と医療の基礎研究や若手研究者の育成に必要な財政の不足が報道されています。そうであれば、双方が医療で社会貢献する事業者の立場から、長期的な研究体制の強化につながる合意を行い、所得を確定させたうえで課税の公平がはかれるようにすべきではないでしょうか。

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「副業・兼業の促進に関する ガイドライン」の改定

副業・兼業ガイドラインの改定

厚生労働省は、令和2年9月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「副業ガイドライン」)を改定しました。

我が国の労働および社会保険諸法令では、特に正社員が複数企業で雇用されることは前提とされていませんでした。

一方、労働力人口の減少や副業・兼業のニーズが高まったことで、複数企業での雇用に配慮した制度が求められていました。

厚生労働省は、平成30年1月に「モデル就業規則」を改定し、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」と副業・兼業を認める内容に変更していましたが、当時策定された「副業ガイドライン」で不明確だった論点が、今回整理されたことになります。

副業・兼業における問題点

副業・兼業による複数企業での雇用によって、以下のような問題が生じます。

・複数事業所間での労働時間管理

・時間外労働に対する割増賃金の負担

・労働保険・社会保険の適用

 使用者は、労働者の申告により、副業・兼業先の事業内容や従事する業務、労働時間の通算対象を確認した上で、新たに策定された「管理モデル」を基に、労働時間の管理や割増賃金を負担することになります。

 労災保険は複数適用で、雇用保険は複数適用が原則認められませんが、令和4年1月以降、65歳以上で合算して条件を満たす場合は適用が認められるようになります。

 社会保険は事業所毎に判断するため、複数の事業所で適用される場合はいずれかの事業所の保険者を選択して、適用されます。

副業・兼業で労使に生じる義務

「副業ガイドライン」の改定で、使用者は安全配慮義務、労働者は秘密保持義務、競業避止義務、誠実義務を負うことが明確にされました。

労働者には、秘密保持や競業避止など従来と同様の義務が課されますので、使用者はこれらの義務が履行されない懸念がある場合には、副業・兼業を禁止または制限しても構いません。

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